目で見る真菌症シリーズ 10
- 真菌防衛戦士 -

 真菌はチリやゴミと共に、室内、室外を問わず空気中を浮遊しており、ヒトは常にこれらを吸い込んでいます。しかし、真菌による感染がいつも起こるわけではないのです。
 なぜでしょう? ヒトの体内には、侵入してくるカビなど、微生物に対する防衛戦士を備えているからです。


図1:兎の肺に配備されているマクロファージが病原真菌のカンジダを取り込んでいるところ(図1a)
   マクロファージに取り込まれた病原真菌であるカンジダが菌糸を伸ばしているところ(図1b)
   カンジダがさらに菌糸を伸ばしマクロファージから逃れようとしている(図1c)

Q. 真菌防衛戦士とは何ですか?
A. 人の体の中には外部からの微生物の侵入に対して、これを防ぐための細胞や機構を備えています。このしくみが免疫です。

Q. 免疫のしくみにはどんなものがありますか?
A. 免疫には、自然免疫と獲得免疫があり、病原体などの異物の侵入を防ぎ、病原体の増殖を防止するしくみを自然免疫と云います。一方、自然免疫に勝利または回避して生体内で増殖する微生物があり、これら病原性の強い微生物に対する抗原特異的な防衛機構を獲得免疫と云います。

Q. 病原体の侵入に対してどの様な戦いが行われていますか?
A. 防衛のための砦として、皮膚や粘膜が異物の侵入を防いでいます。これらの砦が破られると、全身の臓器や組織に待機しているマクロファージと呼ばれる食細胞が出動して接触し、異物や微生物を取り込み処理または殺菌します。また、侵入者を認識してサイトカインと呼ばれる物質を出して他の食細胞(好中球など)を動員して炎症を引き起こして局所での異物の排除や殺菌を共同で行います。さらにマクロファージは,侵入者の特異抗原を認識して獲得免疫反応に引継ぎます。


図2:好中球がカンジダと接触し(図2a)、擬足を伸ばして取り込もうとし(図2b)、取り込んでいるところ(図2c)。図2dは、複数の好中球が協力してカンジダを封じ込めようとしているところ。
【連絡先】 千葉大学真菌医学研究センター 横山 耕治(yoko@faculty.chiba-u.jp)
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