目で見る真菌症シリーズ 7
- カビの性(有性生殖と無性生殖) -

図1:子嚢果(ペニシリン生産菌の仲間の1種)

Q. カビにも性があるの?
A. あります。動物の雌雄、植物のおしべとめしべと同様にカビにも性があり、イチョウのように雄株と雌株の区別がある種類と自家交配する種類があります。ただし、動物のように形態によってオスとメスの区別がつきません。顕微鏡で観察しても見かけは同じです。また、コウジカビのように性がないカビも結構多いのです。


図2:子嚢と子嚢果壁(真菌症のうち最近増加しているアスペルギルス症原因菌の1種)

Q. カビの結婚(有性生殖)と子供(有性胞子)はどのようなものですか?
A. 有性生殖をした結果、
1.子嚢果(図1)と呼ばれるカプセルの中に、さらに小さい袋(子嚢、図2)中に4あるいは8個の子供(子嚢胞子、図3)を作るパン酵母、水虫菌などの子嚢菌類、
2.キノコを発生して傘の裏側の表面に子供(担子胞子)を作る担子菌、
3.雌雄の親菌糸がくっついた所に接合胞子(図4)と呼ばれる子供ができるクモノスカビなどの接合菌類があります。
有性生殖では両親の遺伝子が半分ずつ子供に伝わります。これに対して、性のないカビ(不完全菌類)は、有性胞子を作りません。


図3:子嚢胞子(アスペルギルス症原因菌の1種)
図4:接合胞子(クモノスカビの1種)

Q. カビにも雑種があるの?
A. 動物でよく聞かれる「雑種」で、ライガー(オス親がライオン:学名Panthera leo、メス親がトラ:学名Panthera tigris)の様に種が異なる場合の交配を種間交配といい、イノブタ(オス親がイノシシ:学名Sus scrofa、メス親がブタ:Sus scrofa)の様な同種による交配を種内交配と言います。種内交配では、正常な生殖能力を持つ子供(第一代雑種)が産まれ、一方種間交配では、産まれた子には子孫を残す能力が欠けています。
もちろんカビにも「雑種」はあります。特にカビの場合、名前(種名)がわからない時に、既に名前のわかっているカビと交配させ、正常な生殖能を持つ子供が産まれれば、同種だと判定でき、名前がわかります。また、交配により両親の良い性質をそれぞれ受け継いだ子が産まれることがあり、産業的にはこの方法が、品種改良に使われます。
しかし、味噌、醤油等の発酵に欠かせないコウジカビなどでは雌雄の区別がないので、菌糸と菌糸を吻合させたり、人工的に細胞壁を溶かして2つの株を融合させ、無性的に交配させて雑種を作り品種改良を行っています。


図5(左):分生子形成(ペニシリン生産菌の1種)
図6(右):分生子形成(水虫原因菌の種)

Q. カビの無性生殖器は?
A. クローン動物が話題になっていますが、カビではクローンを増やすことは簡単です。植物が挿し木で増やすことができるように、菌糸の一部を切り取って移植できます。菌糸から芽が出るように生まれた分生子(図5、6)や、菌糸の先端が袋状になってその中にできる胞子嚢胞子(図7)からもクローンが育って一人前の株になります。したがって、遺伝子のすべてが次世代の子供クローンに伝わります。分生子は子嚢菌類と有性生殖をしない不完全菌類に、胞子嚢胞子は接合菌類に見られます。


図7:胞子嚢胞子(クモノスカビの1種)

Q. ふつう有性生殖と無性生殖のどちらが見られるの?
A. ふつう食品や壁に生えるカビは無性生殖で増殖しています。また、ヒトの皮膚や臓器に感染するカビも体内では無性生殖で増殖していますが、体外で生育させると有性生殖をすることがあります。また、植物に寄生するウドンコ病の原因菌は有性生殖で越冬し、古い書物が黄色に変色する原因となるカビは、有性生殖で増殖することができます。

【連絡先】 千葉大学真菌医学研究センター 043-226-2790
矢口 貴志(t-yaguchi@faculty.chiba-u.jp)
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