目で見る真菌症シリーズ 5
- カビの骨 -

図1:血清を含む培地で37℃培養中の菌糸形の蛍光顕微鏡写真(FITC,DAPI,ローダミンによる3重染色)
図2:菌糸形で生育中のアクチン顆粒と微細繊維の蛍光顕微鏡写真で、アクチン顆粒は細胞壁合成部分(菌糸先端や隔壁)に局在し、微細繊維がアクチン顆粒を支えている様子が観察できる。
図3:pHの変化に伴う菌糸形から酵母形に変換中の蛍光顕微鏡写真

カビ(真菌)に骨があるの? と不思議に思われるかもしれません。真菌にはいわゆる骨はありません、でも、形があり、親から子へと似た形を受け継いでいます。この真菌の形は細胞壁によって保たれており、明らかに遺伝しています。では、種に特有な形をつくる仕組みはどうなっているのでしょう? この仕組みについてはまだ十分かっていませんが、多くの研究者が興味を持っているテーマの一つです。また、真菌が宿主に感染した場合に、形を変える真菌がいて、二形性真菌とよばれ、この形態変換能力は病原性を示す一つの要素と考えられます。

Q. 緑色の骨のように見えるものは何ですか?
A. 微小管と呼ばれる細い管で、細胞内の核が2つに分かれるときに両端に引っ張る役目を果たしています。

Q. オレンジ色に光っているものは何ですか?
A. 粒のように光っているのがアクチン顆粒で、ひものようにアクチン顆粒をつないでいるのが、微細繊維です。

Q. アクチン顆粒と微細繊維はどんな役割をしていますか?
A. 細胞壁が真菌の形を保っていると話しましたが、菌が成長するには成長している部分で細胞壁を作り続ける必要があります。この部分に細胞壁を作る材料と道具を集める役割を果たしています。このことで、決まった形に作り上げられます。さらに作っている最中にその部分が壊れないようにしなければなりません。この大事な役割をアクチン顆粒と微細繊維がしていると考えられます。

Q. どのようにして、アクチン顆粒と微細繊維のやく割を確かめたのですか?
A. 以前は、微小管がこの役割を果たしているのではないかと考えられていました。そこで、微小管をバラバラにする薬剤を使いましたが、菌糸形を保ったままでした。ところが、微細繊維をバラバラにする薬を使うと菌糸形から酵母形に変化しました。これで微細繊維が菌糸形を保つために必要だと分かりました。

Q. どうして同じ菌で3種類の中身が見えるのですか?
A. 特有の光の波長の時だけ蛍光を発する3種類の蛍光色素を用い、それぞれ3種類の光を当てて蛍光を発するものだけを色の付いたフィルターを通して観察することができるので、それぞれの写真を撮れば3種類のものを観察できます。

Q. 二形性真菌とは何ですか?
A. 酵母形と菌糸形の2種類の形態をとる真菌を二形性真菌といいます。ここに示した写真は、カンジダ・アルビカンスで、通常の培地では酵母形、感染部位や血清などを含む培地では菌糸形と2種類の形態をしめす二形性真菌の一つです。 カンジダ・アルビカンスは、培養の時に培地のpHを酸性に変えると菌糸形から酵母形の生育に変換されることが分かっておりました。この時の微小管とアクチン顆粒、微細繊維を観察したのが図3です。この図では微小管には変化がなく、アクチンが重合して形成される微細繊維が観察されなくなり、アクチン顆粒が先端成長部分での局在性 が失われていることから微細繊維が菌糸形維持に重要な役割を果たしており、微細繊維の重合を阻止すれば病原性を押さえ込むことができると思われます。

【連絡先】 千葉大学真菌医学研究センター 横山 耕治(yoko@faculty.chiba-u.jp)
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