目で見る真菌症シリーズ 3
- ハリネズミからとれた水虫菌 -

ハリネズミはペットとして、今とても人気があります。でも、針の根本にヒトにうつる水虫菌を持っていることがあります。千葉大学真菌医学研究センターではハリネズミから水虫菌を見つけ、その菌は日本では初めて見つかった水虫菌であることがわかりました。


写真1:ヨツユビハリネズミ
写真2:動物につく水虫菌にヒトが感染するとひどい膿、かさぶた、脱毛がみられます。

Q. ハリネズミってネズミなの?どんな動物?
A. ネズミという名前がついていますが、モグラの仲間です。写真1は今、ペットとして、最も多く飼育されているヨツユビハリネズミです。

Q. 水虫菌って何?
A. 実はカビ、そう真菌なのです。ふつう一般に“水虫菌”や“たむし菌”と呼んでいますが、“白癬菌”というのが正式な呼び名です。

Q. 水虫菌って足しかうつらないの?
A. 足だけではなく、顔や頭や手はもちろんのこと、からだ中の皮膚、爪、髪の毛にうつります。

Q. その水虫菌がハリネズミにうつるとどうなるの?
A. 軽いものですとさわったときにハリネズミの針が抜ける程度ですが、重症ですと体を震わせただけで針がバラバラと抜け、こわれた剣山の様に禿げてしまいます。また、皮膚が赤くなりフケもたくさん出ます。

Q. 水虫菌がハリネズミにうつってしまったらなおせるの?
A. まず獣医さんに行きましょう。お薬を4~6週間飲ませるとなおります。獣医さんの言うことをきいて、しっかり治して下さい。また、家族や親しい方に皮膚がかゆくなったり、赤くなったりしている人はいないでしょうか? そのような場合、直ぐに皮膚科の先生に相談しましょう。

Q. ハリネズミの水虫菌はヒトにうつるの? うつるとどうなるの?
A. ヨーロッパや中近東ではたくさんの人がうつっています。顔、頭、手足の皮膚に丸く赤い部分が出来ます(紅斑性丘疹)。皮膚の赤い部分と正常な部分の境にみずぶくれ(水疱)ができることもあります。頭では髪の毛が抜け、フケがたくさん出るほか、重症では菌が毛根の奥まで入っていくため、膿が出て、触ると痛く、毛が抜けます(ケルルス禿瘡、写真2)。ごく最近に本でもうつった人がいるというホットな情報がありました。


写真3:ハリネズミの水虫菌。正式にはトリコファイトン・メンタグロファイテス・バラエティー・エリナセイ(Trichophyton mentagrophytes var. erinacei)と呼ばれています。
写真4:ほかの水虫菌と同じように色々な形の胞子をつくります。この胞子が飛んできたときに、皮膚にキズがあるとそこから入って皮膚病をおこします。
写真5:ハリネズミについていたダニ。水虫菌だけでなくペットについているバイキンやムシにも気をつけましょう

Q. ヒトにうつってしまうと治せるの?
A. 皮膚科医にかかりましょう。必ず「家でハリネズミを飼っています」と告げましょう。治療は外用抗真菌剤と内服薬があります。治療は数週間以上かかりますが、根気よく治療して下さい。また、飼っているハリネズミを獣医さんにつれていって検査をして下さい。ハリネズミが症状を示していなくても、菌を持っている場合があります。

Q. ハリネズミの水虫菌がヒトにうつるということはどういうことなの?
A. ヒトからヒト、動物から動物だけでなく、動物からヒト、ヒトから動物にうつるような病気を人獣共通感染症といいます。ですから、ハリネズミの水虫菌は人獣共通感染症の原因菌です。

Q. ハリネズミはみんなこの水虫菌を持っているの?
A. 18匹のハリネズミのうち7匹はこの菌を持っていました(約40%)。

Q. ハリネズミの水虫菌はどんな菌なの?
A. 白いレースのような菌で、黄色い色素をつくります(写真3)。顕微鏡で観察すると色々な形の胞子がみえます(写真4)。この胞子が飛んできたときに、皮膚にキズがあるとそこから入って皮膚病をおこします。

Q. ハリネズミの水虫菌は他の水虫菌とどこが違うの?
A. とれた菌を見た目で区別することは難しいのですが、水虫菌の不思議な性質として、ヒトを含めて感染する動物が菌の種類によって決まっています。たとえば、本来ヒトにつく水虫菌はヒトに、ネコにつくものはネコに、ウシにつくものはウシに、ハリネズミにつくものはハリネズミにというようになっています。しかし、運悪く他の動物が感染してしまうと、とても激しい症状を示すことが知られています。ですから、ハリネズミの水虫菌がヒトにうつると、先に書いたように皮膚の赤み、フケ、脱毛、膿などを伴った症状になるわけです。反対に、ヒトの水虫菌が動物にうつると、動物は全身の毛が抜け、フケやかさぶたがたくさんできてひどい症状になることが知られています。

Q. ハリネズミから日本で今まで報告されていなかった水虫菌がとれたということは、他の珍しいペットも同じことなの?
A. そうです。チンチラというネズミの仲間からも日本で今まで報告されていなかった水虫菌が、不幸にもヒトが感染してから発見されました。ですから、今まで日本で一般的でなかったペットは要注意です。もちろん水虫菌だけでなく、バイキンやムシなども注意しなければなりません。今までに日本に無かった病気やとても危険な病気を持っているかも知れません。ちなみにハリネズミにはダニもたくさんついていることが知られています(写真5)。ダニも病気の原因をまき散らす場合があります。

最後に:
人と動物が仲良く暮らすための責任はすべて人にあります、水虫菌に感染しているから、何だかわからない病気になってしまったからといって、その動物を野外に捨てることは、日本の生態系を崩すばかりでなく、感染症を蔓延させる危険があるので、決してしてはならないことです。ペットを飼っている人、医師、獣医師の連携により、潤いのあるペットとの暮しが生まれ、人獣共通感染症の予防ができるのです。

【連絡先】 千葉大学真菌医学研究センター、現 琉球大学 農学部 亜熱帯地域農学科 佐野 文子
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